───以前はプロフィールに「元スイマー」とありました。投稿でもときどき、その話が出てきますが、水泳はいつ頃からやっていたんですか。

久保田さん: 6歳のとき競泳を始めました。でもオリンピックを狙うようなレベルの子は6歳ですでに選手コースを泳いでいたんです。スタートがすごく遅かったことが自分のコンプレックスで、早く同年代のみんながでている試合に出たい、みんなと同じ水着が着たいって。始めてから選手になるまでは早い方だったと思いますけど、ただがむしゃらでしたね。高校を卒業するまで競泳をやっていました。


───学生時代は競泳ひと筋だったんですね。そもそも水泳をやるきっかけはなんだったんですか。

久保田さん: 保育園の頃、体験で行ったスイミングがすごく楽しかったんです。その1日のことを思い出して幸せな気持ちになれるくらい楽しくて。プールに行きたいと思いながら、母親が朝から晩まで必死に働いている姿を見ると罪悪感があってなかなか言えなかったんです。でもある日、オリンピックで千葉すずさんが泳いでいるのをテレビでみたとき、私も頑張ったら抜けるって思ったんです。それは50Mのタイムを25Mのタイムだと勘違いていたからなんですけど(笑)。「プロになってお母さんを幸せにするからプールを習わせてほしい」って母親に懇願したことを覚えています。

───そんなストーリーがあったんですね。


投稿は“一生残るもの”。 後から見返したくなるものだけを

───インスタはどんなきっかけで始めたんですか。

久保田さん: 夫によく書き置きをしていたんです。せっかく書くんだったら語彙力をつけようと思ってやっていくうちに、最初は「これ温めて食べてね」だったものが2枚の手紙になり、3枚になり、大事にしているポストカードに書いたり…。そのための下書きを携帯にメモしていたんですが、消すのもさみしいな…と思って。


───それでインスタにあげるようになったんですか。

久保田さん: インスタのアカウントはあったんですけどそんなに更新はしていなかったんです。でも、誰かの投稿に“インスタで見続けるものってキャプションをちゃんと書いてあるもの”というのを見て、ここに書いてもいいんだって。それでメモしたものを少し整えてアップするようにしました。


───インスタ用に書き下ろしたものではなくて、もとは旦那さんへの手紙がベースになっていたんですね。

久保田さん: 夫は仕事でもプライベートでもよく手紙を書く人で、そういう人ってもらうのも好きじゃないですか。だから私も手紙を送ることに抵抗がなかったんだと思います。


───最初の方に比べると投稿スタイルが変化しましたよね。

久保田さん: ある時まで、私にとってインスタはそのメモを消さないためのものだったんです。インスタをやっていることに対して誰かに影響を与えているという認識がなくて。それがインフルエンサーの方と話す機会があっていろんなことを教えてもらい、人に見られている意識を持たなければと思うようになりました。今のような決まった配列にしたのもそれ以降です。

@kubotakazuko • Instagram写真と動画

───きっかけがあったんですね。文章も何か変えたんですか?

久保田さん: それまではちょっと分かりにくい文章だったと思います。でも、後から読み返して読みたくなる文章だけを上げようと思ったんです。ここにあげるものは「一生残るもの」だから「とりあえず」も「取り急ぎ」もないなと。そして誰かの本棚に残るものだから、汚していないか?を考えるようにしています。


───この3種類の写真には、どんなこだわりがあるんですか。

久保田さん: 私の好きな「白」で固めていて、3つの写真は私の好きな時間なんです。紙カップがある写真は誰かに作ってもらったコーヒーのある朝、豆が入っている写真は自分で淹れたコーヒーのある時間、夫と二人で過ごせた時間を切り取っているんです。


───そういう意味だったんですね。エッセイでは旦那さんのことがたびたび描かれていて、学びと刺激がある素敵な夫婦像が伝わってきます。

久保田さん: 夫の持っている人生観が好きでそれを教えて欲しいんです。だから一緒に過ごす時間は正解のないことを延々と話したりして、私と夫の関係性って先生と生徒のような感覚かもしれません。夫も私のことを“一番のメンター”って言うんですけど(笑)。

スターバックスが教えてくれたこと。

───人生観だけでなく旦那さんから影響を受けていることってありますか。

久保田さん: 今こうしてスターバックスで働いていることもですね。創業者のハワード・シュルツに憧れて働きたいと思ったんですけど、彼のすごさを教えてくれたのも夫でした。


───そうなんですね…!

久保田さん: ハワード・シュルツは働く私たちに定期的に手紙を書いてくれるんです。それも丁寧な言葉を選んで書かれていて、文字を綴り続けることの大切さを教えてくれました。去年CEOの退任が決まりちょっとショックではあったんですけど…


───どんなことをモチベーションに働いているんですか。

久保田さん: 朝番で働いているんですけど、「行っていらっしゃいませ」ってお客さまを送り出したいんです。スターバックスのようなサードプレイスで自分を整えて会社に行く人っていい仕事するだろうなって思うんです。行ってらっしゃいって言われると気持ちよくないですか。だからいい仕事をさせるのも私たちの一声にかかっていると思っていて。夫を見送っているのと同じような感覚ですね。


───そんな思いで働いていらっしゃるんですね。でも、書く仕事との両立は大変では?

久保田さん: 私は早起きが得意なので午前中はスターバックス、午後は物書きの仕事、趣味の水泳、家事などに時間を当てています。パラレルキャリアを意識して確立しようとしています。


───ちなみに会社はこのアカウントをご存知なんですか。
久保田さん: 知っています!




私にとっての書くことの意味。 そしてこれから目標

───インスタをすることで企業からの仕事のご依頼もありますよね。

久保田さん: そうですね。インスタのアカウント上での仕事はほとんどやっていなくて、企業のウェブサイトや広報誌、雑誌、フリーペーパーなどでエッセイや詩、コラムなどを書いたりしています。そのほかにも、バリスタとしてイベントに出させていただくこともありましたし、トークショーもさせていただきました。


───幅広いですね。お仕事をされてみてどうですか。

久保田さん: 連載を続けさせていただけて、誰かがそこに共感してくれているという手応えはありますし、また次へと繋がったりします。それも写真では起こらない、言葉が持つ魔法だなと思います。


───久保田さんにとって「書く」ことはどんな思いが込められているんですか。

久保田さん: 見たことがない誰かの、不意に出会った言葉に救われることってあると思います。日頃感じていた言葉にならない感情を誰かが文字にしてくれることで、自分の感情を知ったり、自分を肯定することができたり…。そんなふうに誰かの気持ちを代弁しているような文章を、いろんな形といろんな場所で綴っていきたいです。


───久保田さんのインスタに励まされているフォロワーがたくさんいらっしゃると思います。インスタをすることでご自身にも変化がありましたか。

久保田さん: 文字にすることで自分の気持ちをいくつも知りました。感情を漢字にすることで、こんな感じ方もあるんだって。
走り出したいけどどうしてもブレーキしか踏めない時って私にもあります。そういうとき自分で書いたものを読み返して、不覚にも自分の言葉で勇気づけられたりもします。


───これからの目標はありますか。

久保田さん: 私の文章を通して「これでいいや」ではなく「これがいい!」という選択ができる人を増やしたいんです。熱量と信念を持って、自分の進む道を「納得」して選んでいける人になってほしい。それを「言葉」で導いていきたいですね。人生で迷うことって多くあると思うんですけど、「悩む」と「考える」のは違う。「悩み」は迷路で、「考える」はゴールがなくても自分への納得を生み出せるから自分に芯ができていくんです。深く納得して進んでいくことで、結果描いていた夢と違っていても、頑張った経験が財産になっていくと思っています。

───久保田さん、ありがとうござました!





撮影/目黒智子



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